伊吹山スロービレッジ 3年間の総括

山を元気にすることは、
ひとの暮らしを守ることにつながる

ニホンミツバチの危機を救いたい

この辺りは山が近いので、昔からニホンミツバチを飼育している方がたくさんいました。私達も10年ほど前から巣箱を置いて、ニホンミツバチが繁殖できる環境づくりを行ってきたのですが、6年ほど前から急に姿を見なくなってしまって。うちだけではなく、まわりの方も「みんなミツバチが来なくなった」と言っています。

10年前は、山に入ると、大木のウロの中にミツバチがたくさんいるのをよく見かけていました。時にはそこにクマの爪痕がついていることも。でも今は、そんな光景を見ることも全くなくなってしまいました。ショックです。

2018年からニホンミツバチの保護活動に加わって、もう一度巣箱を置くようになったら毎年1、2箱は入ってくれるようになりました。でも、昔に比べるとかなり減っています。ネオニコチノイド系の農薬やアカリンダニが影響しているという説もありますが、実際のところ、理由はわかっていません。

ミツバチがいなくなると生態系が壊れて、山や森がなくなり、最終的には人も生きていけなくなると言われています。ニホンミツバチはあくまで野生の生きものなので人間の手で直接増やすことはできませんが、巣箱を置いたり普及活動を兼ねた講習会を開いたりしながら、ニホンミツバチの保護活動はこれからも続けていきます。



伊吹山の薬草ブランドを活かしたクラフトビール


伊吹の薬草は、千年以上の歴史を持つ超優良ブランドであるにも関わらず、現代ではあまり知られていません。そのブランドをどうやって復活させ、つないでいくかを考えて、2014年に「伊吹くらしのやくそう倶楽部」を立ち上げました。
同時に、この地域に昔から伝わる棚田を持続させたいという思いで何か事業化できるプランはないかと考え、棚田で育てる薬草やハーブを使ったビール作りを始めました。

おいしいビールを作るには、まず、ベースとなるビールがおいしいことが大前提。京都の一乗寺ブリュワリーさんにお願いして、それぞれのハーブに合うベースのレシピを作っていただきました。そこから何度も試作を繰り返し、2021年にはついに2種類の試作品を完成させることができました。

薬草ビールに入っているハーブや薬草類は、すべて米原市小泉の棚田で自然栽培をしたもの、もしくは自生しているものです。副原料には自家製の米麹を使用、ニホンミツバチのハチミツも入っていて、1本のビールで伊吹の恵みを味わえるのが最大の特徴です。

将来的には自分達の醸造所で、棚田で育てた麦やホップと薬草からビールをつくりたいと考えています。好きな薬草を自分で摘んで、オリジナルのビールが作れるワークショップもできたら、伊吹の自然や棚田のことをより多くの人に知ってもらえる良い機会ができると思います。



日本の伝統染料「日本茜」の復興


日本茜(ニホンアカネ)は、日本古来の色「茜色」を生み出した植物です。かつては根の部分が染料として使われていましたが、色を出すのが非常に難しく、今ではほぼ忘れ去られた存在になってしまいました。

その日本茜を復興するために、大阪で染料になる根っこの部分を育てる研究をされている杉本一郎さんのもとで、一昨年に植え付けを行い、前年は実際に日本茜を使った染色を体験し、今年は根を掘り出す作業をしてきました。

実は日本茜って、草に混じってその辺に自生しているんです。でも、染料になる根っこを掘り出すのにものすごく手間がかかる。特にこの辺りはゴロゴロとした岩が多いので、とてもじゃないけど掘れません。今回の活動で日本茜の育て方や根を掘り出して染料にする方法を学んだので、今後は人手を確保して、少しずつこの土地でも日本茜の復興に取り組んでいきたいと思います。



伊吹山に自生する「イブキカリヤス」の栽培

日本茜と同じく日本の伝統的な染料ですが、こちらは鮮やかな黄色が特徴です。カリヤスは日本中どこにでもあるイネ科の植物ですが、特にイブキカリヤスは発色が良く、染色の世界では特別な存在。比べてみると、イブキカリヤスで染めた右の布の方が鮮やかに見えますよね。正倉院の収蔵品にもイブキカリヤスで染められた古裂が残っているんですよ。

以前、日本茜の染色体験に参加した時に、兵庫県から来た染色家の方から「米原なら、イブキカリヤスは生えていますか?あったら少し分けてもらえませんか」と声をかけられたんです。そこでイブキカリヤスに染料としての希少性、市場性があることを知り、本格的に栽培を始めました。

まず、米原市内にある甲賀の山の方までイブキカリヤスを採集しに行きました。よく似たイネ科の植物と見分けるのが難しいのですが、専門の方に同定していただいて、確かにイブキカリヤスだとわかったので、今はそれを鉢植えにして増やしているところです。栽培した植物をどう活用していくかを今後の課題として取り組んでいきます。



「山を健康にするための仕組みづくり」を
地域の課題に

この辺りでは、ひとつの山を複数の人が分割して所有しています。だから、どこからどこまでが自分の山かわからず、整備しようにも手が出せないという問題があります。さらに世代交代が進むにつれて、お荷物となった山は放置され、荒れた山は獣にとって格好の棲家となり、獣害はひどくなる一方です。

荒れた山を目の前にしながら、何もできないのはとても歯痒いです。どうやったら木を切れるのか、切った木はどう処分すればいいのか。山を健康にするための仕組みづくりを、地域の課題として、行政も交えて考えていく必要があると思います。

この3年度間(2019年11月から約2年半)の活動には以前から自分達でやっていたことも多いですが、「やまの健康」推進プロジェクトとしてバックアップしていただいたことで活動が加速でき、いろいろなことが形になってきました。こういった取り組みは、一時的短期間での成果を追い求めることより、長期的に持続させていくことが大切と考えています。これからも今やっていることを継続して取り組んで行きたいと思っています。