人の暮らしは山から始まった。
土に触れ、自然と一体になって
初めて食べた、もぎたての野菜が忘れられなくて
ちょうど今、向こうの方に大人の背を超えるほどの茅でぼうぼうになっている場所がありますよね。
私達がここに来た頃、この小泉地区の棚田のこのエリアはほとんどがあの状態でした。
もともとのこの辺りは、地元の方が使っていた棚田だったんです。
田んぼとして使われていたのは少なくとも30年以上前。それを開墾して、田んぼと畑を復活させました。
夫婦とも農業とは全く縁のない家で育ちましたが、大阪で暮らしている時、ある仕事がきっかけで生まれて初めて鍬を持って畑を耕しました。
それがおもしろくて、自分でももっと何かやってみたいなと思い始めた時に、三重県伊賀市で無農薬の貸し農園を見つけて。地元の農家の方が指導もしてくださると聞いて、畑を借りることにしました。
いざ夫婦2人で畑を始めたら、面白くて夢中になってしまって(笑)
いろんなものを作りました。一般的なトマト、キュウリ、トウモロコシ、人参、ほうれん草、他にもいろいろ。
田んぼの体験もさせてもらいました。それが、今から十数年前のことです。
僕もそれまでは農業なんて全然したことがありませんでしたが、やり出すとおもしろくて。大阪から伊賀まで毎週通いました。
3年ほど伊賀の畑を続けて、そろそろ本格的に田んぼがやりたいね、といって田んぼを探し始めたのですが、貸し田んぼってなかなか無いんです。
しかも、農地法の関係で田んぼは農家じゃないと借りられない。じゃあ農家になろうか、ということになりました。
もともと農業をするなら棚田がいいな、と思っていて。
そのころあるきっかけで徳島の農業研究会に勉強に行っていたのですが、そこで日本の農業って、実は山から始まったものだと聞き、棚田が日本の農業の原点だと知りました。
それで、棚田を探し始めてしばらくした時に、偶然の出会いがあって、この小泉地区の棚田を紹介してもらいました。
この土地には「桶水」と呼ばれる伊吹山の湧水があるんです。
これまで一度も枯れたことのない、すごくきれいな、もちろん飲める水で「米原市の水12選」にも選ばれています。
その水を使って田んぼができると聞いて、「もう、ここにしよう!」と、決めました。
移住してからは、自分達でできることはなんでもやってみようと、自伐型林業で山の整備を学んで、荒れた棚田を開墾して田んぼを始めました。
棚田に来た当初は、毎朝5時ころから来てスコップで土を掘って、鍬で耕して、
それから研修に行っていた長浜の農園さんに勤めに出て、仕事が終わってからまた棚田で開墾して少しづつ田んぼにしていきました。
私達自身、貸し田んぼを探すのは難しいと分かっていたので、無農薬、無肥料で田んぼをしたい人に向けて「マイ田んぼ」のクラブのようなものを作りました。
よくある田んぼ体験だと、田植えや稲刈りだけ、というものが多いですが、
うちの場合は田んぼを開拓するところから始まり、苗づくり、畔塗り、代掻き、田植え、草取り、稲刈り、稲架掛け、脱穀まで、稲作のすべてがマスターできます。
何人かは、ここを卒業して各自の家の近くで田んぼを見つけてやり始めてます。
ニホンミツバチがいなくなると、山がなくなってしまう
ニホンミツバチは、去年から再開しました。一般に養蜂で飼育されているのはセイヨウミツバチです。
セイヨウミツバチは家畜で、ニホンミツバチは野生なので、巣箱を置いてそこに入ってくれるのを待つのみ。一番初めは8年くらい前に巣箱を置いて、結構入っていたのですが5年ぐらい前からパタッと入らなくなって。なぜかは分かりません。
うちの棚田だけでなく、姉川上流域で激減しているようなのです。
ポリネーターという花粉を運んでくれる生き物(ハチ、アリなどの昆虫や鳥、獣類)がいて、その代表格ともいえるのがニホンミツバチです。
ポリネーターがいなくなると、山は4年ほどで死んでしまうと言われています。
(ちなみに日本にいるミツバチは「ニホンミツバチ」1種だけです。養蜂に使われるミツバチは「西洋ミツバチ」で、輸入された家畜の一種です。日本の山を守っているのは「ニホンミツバチ」です)
ミツバチのことは、農業を始めてすぐの頃に勉強し始めました。農業とは切っても切れない存在です。
「ハチって怖い!刺される!」とよく思われていますが、ミツバチって基本的には刺さないんです。針が内臓と直結しているので、刺すと死んじゃう。だからどうしても自分たちの仲間を守らなくてはいけない時以外は刺しません。特にニホンミツバチは、大人しいし、人に慣れやすいと言われています。こういうことを知って、改めて見ると、すごくかわいいんです。
巣箱は蜜蝋を塗って置いておくだけです。全部で5つ置いていて、最初に栗の木の下の巣箱に入ってくれたのですが、クマが来て中身を全部食べちゃいました。
クマは蜂蜜が大好物なんです。隅々まで舐めたんでしょうね、ピカピカになっていました(笑)多分、その時に逃げたのがここ(薪ラックに置いた巣箱)に入ったんだと思います。
ここからまた分蜂して、今、梅の木の巣箱にも入ってくれています。
ニホンミツバチは本来は古い木のウロに巣を作るのですが、そういう木がもうなかなかないんだと思います。
ウロができるのは広葉樹の古い木なのですが、今はほとんどが植林された杉やヒノキになっている。
多分、ニホンミツバチはこういう人工的な四角い巣箱は好きではないのかと思いますが、少しでも増えやすいように、分蜂できる先の仮設住宅として置いています。鳥の巣箱を置くのと同じ感じですね。
少しでもニホンミツバチを増やしていくことは、山を守る「やまの健康」事業には欠かせない取り組みだと思っています。